■ヨーロッパで得たものは自分のなかで完成イメージ形成に少なからず影響していると思う。
 金子氏は、デザイン学校時代に休学し、パリの友人を訪ねて、イギリス、フランス、スペインなどヨーロッパに滞在した。当時は本格的にジオラマ製作を行う前だったが、その後の作風にも、模型の本場で得たものが反映されているようだ。
  ヨーロッパの影響は、やはり、あるかもしれないですね。自分の中の完成した状態のイメージっていうのは、当時それまで国内で皆さんやられて作っていたものは確かにすごいんだけれども、何か違うよなっていうのはずっと感じていて、海外の模型を見て写 真から得る情報でこういうのをやりたいっていうのがずーっとあったんです。向こうに行って実際そういう物を目にしたりとか、色の質感とか、トーンでもニュアンスが違うんで、でも僕が目指したのはこっちだよなって思いました。そして、ジオラマを初めてやってみた時に、年齢的なものとか、技術的なものだとか、あとはデザイナーを既に始めていた事とかいろんな事が少しずつ蓄積された状態だったのでトータルでプラスに働いたんでしょう。いきなり、作ったらいきなり出来ちゃったみたいな…。だから、僕の場合は、作っては壊しいろいろ試行錯誤しながらやっと苦労して一つできました、というのはないですね。もちろんそれまでは、単体でのプラモデルでずーっと作ってきたわけですから、技術的なものや方法論はある程度備わっていたので作り始めた時には頭の中にすべて完成した状態が入っていて、自分では出来たときには、もう、これが作りたくて出来ちゃったみたいな、しかも失敗しないで出来ちゃったみたいなところはあります。
 実際作業進めて行く前にコンテや、レイアウトのラフなど、描いているのだろうか?    当時は描いてました。ネタ帳じゃないですけども思いついたアイデアをスケッチで描いておいて今度こんなの作ろうとかこういうの作ったらおもしろいなっていうのはありましたね。あと、歴史的な背景の考証というか合わせる部分っっていうのはありますよね。実際にコンセプトがある程度決まっていてそれを作る為に一応押さえとして、歴史的な背景とか事実関係は後で調べるみたなというのはありますね。でもそれはもうコンセプトに合わせて作りたい物は作りたいので、それはあくまでも付属的なものとして考えています。歴史的考証にこだわって作る場合、よくタンクにしても中のフィギュアにしてもフルスクラッチで作られているものもありますが、ないものをゼロから全部作るとなるとものすごい労力がかかるのでフルスクラッチまではなかなかやらないですね。改造みたいなものは必要に迫られて勿論やりますけど。出来る事なら、改造とかフルスクラッチとかはあんまりやりたくないですね。
 今まで、確かに避けて来た所が当初あったんで、金子のはシチュエーションや着眼点、構成力はおもしろいけど、模型の緻密さとか、精密さとかは、多分あいつは苦手なんだろうっていう風になんとなく思われた時期があって、だったらっていうんで力を入れて作ったものもあるんですが、まず資料を揃えるのも大変ですからね。キリがなくなってしまいます。
 ジオラマは模型を配置する背景にも細かなこだわりがあってこそ見る者を感動させる。製作しなければならないのは人工物だけではない。天候、自然、水、ありとあらゆる情景を作り出すためには、違った視点が必要になる。

■テレビの名曲アワーを見ながら土の色が気になってしまう
 アイデアはアイデアとして思いついた物をすぐに書きとめておいて、あとはそれと並行して、自分が興味あるものの資料を本屋とかいろんなとこに行って、これ今使わなくても将来使えそうだなっていうのをピックアップしてストックしておく、というのはあります。でもそれも膨大な量 になってきますね。ジオラマをやり始ると車両とかそういう資料だけじゃなくて、極端な事を言えば、テレビ見ていると、NHKのBSなんかで「名曲アワー」なんかありますよね。ロシアのウクライナの農民の収穫の時期が来ましたなどとクラッシックを流しながら情景が流れているじゃないですか、すると、ウクライナの土の色って何色なんだろう?なんてつい見ちゃうんですよ。電信柱はタイとか多いのかなとか農機具はどういうの使ってるのかなとか、作物はどうなってる?畑の畝っていうのはあるのかな?などとやっぱり見ちゃう訳ですよ。そうするとビデオ撮らなくちゃいけないとか思ってしまいます。     フラミンゴの情景を作っていましてフラミンゴの資料を集める暇が無かったら年明けにたまたまテレビ欄で、「宇宙船地球号」でアフリカのフラミンゴの何とかをやるっていうので、慌てて予約。だから24時間、何やってても全部本当にジオラマのセオリーです。例えば木を作る作り方ってたくさんあるんですが、いわゆる本物の木の根っこをきれいに掘り出して、ひっくり返すと枝が茂ったミニチュアの状態に見えるんです。そうすると、道を歩いていても道端に根っこが落ちてないかななどとしょっちゅう見ています。とにかく、何を見ても素材として使えるかどうかで見てますね。
  最初の頃、アフリカの情景でフィギュアのマフラーっていうか、バンダナみたいなのを首に巻いているようにしようと思ったんですが、でも紙じゃ厚すぎちゃうし、何か素材がないかなって探してまして…。ちょうど夏でプールとか海に行った後だったので日に焼けて皮がぽろぽろって取れるじゃないですか。これ使えないかなって思ってこうシワの感じとかいい感じだとぴりぴりとはがして、首に巻いてしばったらちょうどいい感じだったのでそのまま使っちゃったことがありました。  鉄が錆びる表現や、使い古された機械の感じを出すのに何かコツはあるのだろうか?
  パステルなんかを使うのもありますが、あとは本当の錆を使ってっていうのもあります。「ホカロン」とかあるじゃないですか。あれは結局酸化物ですから、使い終わったら袋から出して、ちょっと塩ふってカンに入れてそこら辺の外に出して置けばもうぼろぼろに錆びて真っ赤になります。それを砕いてラッカーで解きながら付けていけば本当に錆びの表現は出来るんです。ただ、僕の感覚だとそれは本当の錆びであって、錆びなんだけれど錆びでないと…。それは何故かっていうと模型は本物じゃない。記号論でしかない。だから、本物の錆びを使ったから模型上で錆らしくなるかというと、決してそうはならない。錆じゃないものをいかに錆びのように見せるか、当てはめるかという記号論の問題なのですから。本当の錆びを使っても黒っぽくなっているだけなんですが、例えばそこにオレンジとか、実際にはこんなに錆びるはずはないけれども赤をちょっと入れてあげたりすると、模型上ではすごい錆びてる印象を与えられるんです。  だから、よく、論争になるのが当時のドイツ軍の戦車の色なんですが、当時はカラー写 真が少なく、色が判別出来ない。博物館にあるものも全部塗り直されてると、実際の色が分からない。今も大戦中の工業規格っていうのはそのまんま変わってないんで、ドイツの工業規格を調べて、当時の色番号調べて、それと同じサンプル取り寄せたりするんですが、模型に塗ってみると違って見えたりするんです。スケールエフェクトっていうのがあって対象が小さくなればなる程、色が濃く見てしまうし、逆に大きくなれば白っぽく見えちゃうっていうのがあるんです。
  実寸の戦車の大きさでで見るのと、同じ色を小さなものに塗った時とは印象が全然違って見えるんです。それと当然戦場ですから同じ規格のものが同じ基準で塗られているかっていうとそうではない。だから結局は色って自分のオリジナルでしかないんですよね。自分の感性でしかないんです。いかに模型として、表現としてそこで面 白がれるかっていう部分はありますね。だから全然関係の無い物を持って来て木の葉っぱに見えちゃうとか、調味料のドライパセリを針金でよじったとこにパラパラパラまいて、どうやってくっつけようと思ったら、奥さんがワイシャツのアイロンかけをしてて、そのスプレーのりを借りてシュッシュッとやってパセリをパラパラパラとやったらそれが葉っぱに見えるとかって…。調味料のパセリなんだけども葉っぱに見えてしまう。ここが面 白いところです。
  模型の話をするとまさに子供のように瞳を輝かせて熱く語る金子氏。誌面 には載せ切れない程たくさん語って頂いた。  また、今年で3年目となるが「東急セミナーBE渋谷」で模型セミナーの講師もされておりその技術を惜しみなく伝えているという。最後に金子氏にとってのジオラマとは何かを聞いてみた。  あくまでも表現手段の一つです。パフォーマンスというか…。歌を歌う事も演技をする事も、ものを書いたりする事も写 真撮ったり絵を描いたりする事もたぶん同じだと思うんです。ただ僕はジオラマっていう表現方法が、デザインより、何よりも一番自分の中ではピッタリとくる。ただ、雑誌とかタミヤに依頼されて仕事で作っている部分があるので比較的素材がミニタリーだったりしますけど、本音では別 にミニタリーを作りたいって訳じゃなくてもっと一般的な物も作ってみたい。
  TVチャンピオンでお馴染みの山田卓司さんって方なんかは、昔僕らが子供だった頃の郷愁をくすぐるようなジオラマをシリーズで作っていて、それで強い部分ってあるのかなって思うんですどもね。TVチャンピオンなんか見てても、あれはもううまいっていうか、一番ツボをついてますよね、涙腺を刺激するっていうか。
  だから極端に言えばプラモデルじゃなければならないということはないです。あくまでも素材ですから。、そういう意味では、一般 の人が入りやすいものとか、取り付きやすい素材、テーマっていうのはこれからもっともっと考えて作っていきたいっていうのはありますね。

 

■金子辰也(かねこ たつや)氏  プロモデラー/ジオラマ作家/グラフィックデザイナー。タミヤ総合カタログや、ホビージャパン誌、アーマーモデリング誌などの専門誌に数々の作品を発表し続けている。TV東京系「TVチャンピオン〜プロモデラー選手権」第3回、第4回連続チャンピオンとして有名。現在、東急セミナーBE模型講座の講師も勤め模型の素晴らしさを教えている。

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