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本誌 監督はサングラスをお掛けになった印象が強いのですが、本日はレンズに色が入っているものの、メガネでご登場いただきました。メガネとのお付き合いがどれくらいになりますか。
山本 三〜四年ぐらい前から老眼になりましてね、メガネに度を入れたのは五十六歳から。それまでは、メガネの必要性がないにも関わらずメガネ(サングラス)を掛けていたわけですよ。考えてみると、小さい頃のイメージでいうサングラスは非常にダーティーなイメージと、ある特殊な職種の人達だけが掛けているものと思っていました。
本誌 視力を補うメガネとしてはまだ日が浅いのですね。トレードマークにもなっているサングラスを掛けるようになった動機にはどんなものがあったのでしょうか。
山本 一番印象に残ったのが、日本の占領軍総司令官ダグラス・マッカッサー。レイバンのサングラスを掛けて、厚木に上陸した時の写
真が新聞に載っていた。終戦の翌年に小学校ですから、民主主義の一番最初の小学生なんです。マッカッサーは、軍服に勲章をまったく付けないでしょ。非常に単純な、軍服に帽子とサングラスとコーンパイプでいる。もの凄く格好良く見えたね。
サンフランシスコ条約で日本が独立する迄の七年間は、アメリカンスクールみたいなもので、米軍統治下の小学生なんです。返還される前の沖縄みたいかな。給食には、米軍の缶
詰がでたり、コンビーフをパンに付けて食べてみたり。アメリカに負けてしまったっていうのは、大人達にはあっただろけど僕達は小学生だったから、実感があまりなかった。確かに、空襲とかで逃げ回った記憶はあるけど。
本誌 子供心にもアメリカの文化に憧れを抱いていたようですね。
山本 そうかも知れません。それで、アメリカの民主主義がいかに素晴らしいか、日本人を教育するためにアメリカ映画が沢山入ってくる。耳にタコが出来るくらい、民主主義ですよ。高校生ぐらいになってやっと、安物のサングラスを掛けて湘南の海を歩いた時には、自分が倍以上格好良く見えて、自分だけ自意識過剰になっちゃった。その時、不良に「お前格好いいサングラス持っているじゃない。ちょっと貸して」と言われて、そのまま取られちゃったり。
本誌 日本の著名人達からは影響を受けませんでしたか。
山本 私が一番最初にお洒落とか、今で言う何とか族風の洗礼は、東京都知事の石原さんが書いた『太陽の季節』の太陽族なんです。あれで、海に行くとみんながサングラスを掛けている。それが中学生ぐらいの時だったかな。つまり、サングラスを掛けてみたいという強烈な願望はあったけど、夏は訪れなかったんだよね。サングラスを買っても、家では中学生の分際でなんて言われるし、学校にも持っていけなかった。
本誌 サングラスは掛けたかったけれど、時代や社会の目が厳しかった時代だったようですが、実際に掛け始めたのはいつ頃からですか。
山本 サングラスを掛けるチャンスが到来したのは、スキー。スキーというのは雪面
の反射が凄くて必然的に使うようになりました。その前のサングラスのイメージというのが、自分の幼少時に培われた。つまり日本の文化人も、政界の人も何も例えばマスコミに出る、テレビは当然ないけど映画なんかはさっきも言ったように特殊な方々がサングラスを掛けていた。
本誌 監督の時代に、サングラスを掛けるって事は、もの凄く少数派ですよね?
山本 そうです。大学に入ってからはずっとサングラスからは離れていたんだけど。次にサングラスを掛ける機会が訪れたのは、映画監督になってからですよ。なぜか、映画監督はサングラスを掛けている人が多い。
本誌 亡くなった巨匠黒澤監督もそういうイメージがあります。
山本 考えてみると、ライティングの良し悪し、つまり画家がものを見る時に目を細める。細めることによって、影の部分が良くわかるじゃないですか。照明部は、サングラスのような丸いものを持っていて、それでライティングを見るんですよ。
本誌 映画制作の舞台裏では必要なものだったのですね。
山本 そうそう。間接照明なんてない時代でしたから。直接当ててくるでしょ。
本誌 相当の光量が必要だったのでしょう。
山本 そう。助監督時代もサングラスの必要性はあったけど、助監督時代にそんなに気取っていれば、先輩にぶっ飛ばされましたから。
本誌 封建的な世界ですね。華やかな表舞台とは縁遠い。
山本 職人の世界ですから。テレビマンと言うより、僕らは活動屋と言いますから。ムービーマンとは言わないでしょ。せいぜい後々に、ライトマンぐらい。でもそれはライティングディレクターとかです。それでサングラスの必要性があった。
本誌 システム化された今の照明技術が確立されていなかった中で、サングラスは活躍していたのですね。
山本 もう一つサングラスの効用があります。俳優さんに演技を付けていて、本当はそれで良いけど、もう一度やらせたら、もっと良い演技が出来るんじゃないか。つまり、演出家の業としてです。俳優さんとは仕事上ではあまり目を合わせない方が、非常に過酷な事もお世辞も言いやすいわけ。メガネなしでいくと、本音を言いにくくなる。そういう意味では、照れ屋の部類に入る監督たちはライティングだけでもなくて、気取っているわけでもない。演出する立場上どうしても必要です。
本誌 監督という職業上、演技をつけることも必要ですが、自分自身も飾らなくてはいけないとは。
山本 飾る裏には、目にフィルターを掛けることによるテクニックがある。俳優さんに感情移入なくて、ディレクターという存在としてここに居るというのが分かる。そういう必要性で、僕の場合はサングラスは職業上必要だと考えたのです。もう一つの理由は、二十四歳で監督になっているから、貫禄がないわけです。打ち合わせか何かしている時、「助監督さん、監督さんはどこに居るんですか」なんて聞いてくるんです。私の口からは言えないから、「え〜と、監督さんはc」となってしまう。打ち合わせが始まると、制作スタッフが、「こちらが山本監督です」と紹介をすると、その俳優さんは、「いやだ、すみませんでした。監督さんとは思わなかったもので」と。
本誌 その時は、サングラスをお掛けになっていなかったわけですね。
山本 掛けていなかったです。周りの制作部、カメラマンや照明部の先輩達が、サングラスを掛けて、ビシっときめないとダメだよ。そんな坊やみたいな顔をして、とアドバイスされました。憧れを抱いていたサングラスが逆に必要迫られて掛けたわけですよ。サングラスを掛けた時の効用は、なるほどなと思った。
本誌 実際に使用して、その効果
が分かってきたわけですね。
山本 そうそう。特に夜明けと夕日、つまり朝夜のシーンを撮る時です。物陰に行燈とかを置いたりするんです。そこだけポッと明るくなる。そういう時にサングラスで明るいものを見たり、暗いのを見たり、どこまで出るか見極める。ライトなんて使いようがないから太陽をミラーで俳優さんの側面
に当てるわけですから、よく時代劇なんかにあるでしょ。昼間のシーンなんてそうとうミラーを使っている。ああいう物を使って出される人物像って、それなんかはサングラスを通
して見た方が良く分かる。
本誌 サングラスはファッションとしてでなく、レンズそのものの機能に価値を見い出された。
山本 自分でずっと使っていて素敵だと思うのは、レイバンですね。そもそものルーツは、軍事用に開発されたものだから、お洒落とはわけが違う。機能がものすごく充実している。夜でも明るく見えるレイバンは、不思議なサングラスですよ。僕が初めてミクロネシアへ取材に行った時、夜、月明かりの中で実によく物が見えたね。感動的だったんです。レイバンは傑作ですね。他の安物のサングラスはダメ。逆に目が悪くなる。それにね、今地球はオゾン層が破壊されてオゾンホールが出来ているでしょ、この前、オーストラリアへ取材に行った時は、街の幼稚園児が全員サングラスを掛けて歩いている光景が、異様だったんです。でもそれは、先生や親が目を保護するために掛けさせているんだって。これから地球がこのままだったら、ますますサングラスやメガネがお洒落だとか伊達男だと言う事じゃなくて、地球環境上、必然としてメガネを掛けないといけないような状況になる時代がくるかもしれない。もうきつつあるんじゃないかと思う。
本誌 紫外線は肌への影響だけでなく白内障を誘因するとも言われています。まだ一般
には紫外線カットはレンズのカラー濃度で左右される方が多い。
山本 医療的なことは分からないが、僕は、濃いレンズが嫌いなんです。だから自分のサングラスの色の度合いは通
常、市販されていません。それからレンズから見た場合、度の入っていない、伊達メガネの世界も覗くことができました。伊達メガネを掛けると女性は変わってきます。しかもちゃんと掛けないで、少し下げてて掛けるとキャリアウーマン風になる。僕自身も素通
しを掛けるとまた違う感じになる。こういう伊達メガネの世界って、今のところ結構好きなんです。例えば、NHKの朝の連続ドラマ「わたしの青空」の氷屋の社長とか、ああいうのを掛けるとまた違う感じになる。今日持ってきたメガネは鼈甲風で丸いレンズ。いかにも昭和の初期に生まれちゃったみたいな、おじさんメガネ。このような感じの物をものも何個か持っています。
本誌 監督業以外に俳優としても数多くの作品に出演されていますが、役作りのためのメガネは提供されたものでしょうか。
山本 僕は結構自前を使っています。だから、レンズが素通
しのままでドラマに出た事はないです。まず度を入れていますよ。伊達メガネでオシャレを楽しむのいいことですが、あんまりお洒落で掛けるのは好きではない。つまりメガネはその人の頻度に関係するんです。頻度でそのキャラクターが出来てしまうんです。ですから目の動きとかがうっすら分かる方がいい。真っ黒で覆ってしまうと変じゃないですか。テレビなんかに出ていても、その人の表情が全く分からなくなる。
本誌 監督がメガネを選ぶ時は、ブランド等は気にされますか。
山本 全然気にしないです。サングラスのレイバンに関しては、機能上。例えば、南の海に行くとか沖縄に行くとか、アフリカに行くとか、そういう強烈な日射しの強い所にはレイバンを持って行きますね。
本誌 ところで監督の行きつけのメガネ店はどのようなお店ですか。
山本 非常に便利主義で、近くの眼鏡屋です。メガネでは一つ問題があって、これは自分のアイディアですがメガネケースは色が付いていて、中のものが分からないじゃないですか。十〜二十本だったらいいけど、僕はメガネを五十〜六十本もっていますから。だから、その眼鏡屋に言ったのです。何でケースを素通
しにしないのかと。たくさん持ってる人間にとっては、いちいち開けて探すのは大変なんだからと。いま持っているのは、眼鏡屋に強引に言って用意してもらったものです。
本誌 五十本以上お持ちとは、我々としても心強い。そのお店とは相当のお馴染みさんですね。
山本 そうですね。そうじゃないと、多少芸能人をやっているから、どっか新宿当たりの混雑した眼鏡屋に行くと、僕が買ったものを、わざわざそれを買っていく人がいるんです。あれがすごく気に入らない。行きつけの所はいつも空いている。要するに、商店街にあるような眼鏡屋さんだから。そこに、目に関するデータがある。レンズは特注で頼んでます。いっぱい眼鏡があるとすごく面
白いです。だけど、不思議なことに眼鏡屋さんで作って以来掛けていないものもあります。死んでる眼鏡がいるんです。いつかは、復活させてやりたいとは思ってるけど。なぜか、気に入って買ったのに使わない。あれはどうゆうところからくるか分からないけど。
本誌 タンスの肥やしになっているメガネをお持ちの方は結構いらっしゃいますよ。
山本 せいぜい四〜五本を使い回すというのはありますけどね。
本誌 ビジネスマンだと、スーツ、ワイシャツ、ネクタイを最低四枚持っていると、全く同じものを着ているということが分からないそうですよ。メガネも三本以上持っていれば、かなり新しい発見ができるはずです。
山本 サングラスは二十本以上あるのは確か。何かメガネって浮気の象徴みたいなものがあって、結構好きなんだよ。メガネをしょっちゅう変えたがるやつは、浮気性なんじゃないか? 人の顔ってそんなに変わるわけではないから、本質的に変身させる場合、髪型と髪の色、メガネ、これによってその人を大幅に変える事ができる。ドラマというのは、主人公の履歴書から作るわけ。来年の大河ドラマに出演しますが役柄は反町隆が演ずる信長の家老役。なぜか彼は信長を裏切るんです。なぞの人物で長いこと家老をやっていくんですが、彼の晩年、メガネを掛けたシーンが登場するかもしれません。安土桃山時代に果
たしてメガネがあったのか、ディレクターと話したんです。多分メガネのつるがない手で持って見るような物があったはずだから、多分そういう物を使うと面
白いかもしれないよって言ったら、それは結構芝居が柔らかくなって面
白くなるかもしれないという話になりそうです。
本誌 信長自身も、西洋好きだからメガネを持っていたとは思いますが。
山本 歴史を調べてみないと分からないけど、江戸時代はもう入っているよね。でも安土桃山であろうと平安であろうと人間が老眼になっていたり、生まれながらにして近眼であるとか、そういうのは歴史上の人物でいっぱいいたと思う。なぜか肖像画といわれているものには出てこないし、明治維新の写
真集を見ても、坂本龍馬は老眼になるまでには生きていないけど、高杉晋作にしても西郷隆盛にしても晩年は多分老眼はきていたと思う。だけどメガネを掛けている写
真はどこにもない。歴史上でメガネといえば、大久保彦左衛門が掛けていたと言われているけど、それも定かじゃない。だけど、外国は貴族が鼻眼鏡やシャーロックホームズの時代にはみんな掛けている。オペラグラスみたいなものも結構昔から発達しているでしょ。ライブで俳優の顔をアップで見たければオペラグラスだって必要だろうし。それから貴族達にとってあれが社交の場所だから、特別
観覧席でどこそこの何様が来ているとか、あそこの未亡人が来ているぞとか、ちらちら目線を送ったり。舞台を見るだけじゃなくて、人間関係、恋愛関係の一環としてオペラグラスは重要なものだったんです。古くからメガネの歴史はあったのだろうけど、果
たして人類はいつぐらいからメガネというものを使い出したのかは、詳しくはないけど面
白い歴史ですよね。
本誌 メガネの歴史を絡めたテーマで作品が出来るかもしれませんね。
山本 作ったら面白いだろうね。
本誌 監督は風俗関係のレポートも精力的に活動されていますが、風俗嬢がメガネを掛けて仕事をしているケースはありましたか。
山本 まずいないね。終わって帰る時になったら、メガネを掛けて普通
の子に戻る子はいるけど。それから、メガネの有りようが全く変わりましたよね。なぜか親からもらった茶色い目が気にくわないと、カラーのコンタクトを付けている子が多い。風俗嬢に関しては、十人のうち八人はつけているんじゃない。しかもグレーが好きだって言う人がいるのは分からないね。灰色の目っていうのは、ある種知性的なものを感じるけどね。灰色というのは、エルキュール・ポアロがよく言いますよね。私の灰色の脳細胞がっていう、すごく活性化していて。
本誌 やはりメガネは必要悪みたいに捉えられていて、特に若い女性は敬遠しがち。コンタクトレンズ一辺倒ですから。
山本 女性の場合は、メガネを掛けている自分が嫌で、仕事場ではコンタクトをしている人がいっぱいて、メガネに対して偏見を持っている人はいるけど、これは慣れですね。やっぱりいいメガネに遭遇するまで、探しまくるとかしないと。
本誌 監督の目から見て、メガネを掛けている女性というのはどう映りますか。
山本 メガネ、いいですよ。メガネを掛けている女性がメガネをとった時には、下着を全部とった時よりも、その人の内面
が出てくるみたいな。魅力があっていいんじゃないですか。今の子はすごいんだから、ラブホテルで取材をした時に、聞いたんだよ。休憩でラブホテルに入る時に、君はそのメイクを落とさないわけって聞いたら、落としません、と。そのメイクのままメイクラブするんだって言ったら、そうに決まっているじゃないですかって言うんだよ。シャワー浴びる時は肝心な所だけ洗えばいいわけだって言ったら、そうです、なんて言って。それで俺初めて発見したんですよ、休憩で入る男女は、少なくとも女の子はメイクを落とさないってこと。メガネをとって、メイクを落として、バスルームから出てきた時に女性の魅力を感じるんだけど。
本誌 女性の場合、メガネの掛け外しが色っぽく見えるとは意外でした。
山本 メガネの掛け外しは、これから女の子は考えた方がいいですよ。その人の本質的なことが分かるのは、メガネを外した時やケースに収める時のアクションに出てくる。それを上手い具合に作ってしまった女性は得ですよ。
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山本監督から見る女性の眼鏡について、そして最新の映画について熱くお話しいただいていいます。
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