private eyes magazine
創刊号
なぜこの時期に沖縄なのか。マリンスポーツに代表されるように夏がシーズンなら、いまは間違いなくオフシーズン。自然を友達にバカンスを楽しむのは季節にお任せして、季節感抜きの沖縄を紹介したいと思う。と言っても二泊三日と限られたスケジュール。どこまで深く掘り下げることができるか心配ではある。 何を隠そう沖縄は初めての地で、すべてが手探り。何か得意な分野と、自問自答していると、たどり着いたのは「食文化」。 食文化と言えば聞こえはいいが、飲兵衛記者が考えることと言えば酒だ。そう沖縄には、全国に知られた「泡盛」がある。 泡盛、なんとも心に響くフレーズである。日本全国その土地に地酒があるが、この泡盛は海外生まれの日本育ちといった感がある。泡盛の歴史は古く、今から六百年ほど遡ることができる。琉球を統一した第一尚氏王朝時代には製造されていたとされ、そのルーツは南蛮交易にタイの酒ではないかといわれている。それもそのはず、原原料はタイ米を使用しているからうなずける。 そして琉球王朝時代、泡盛は造りは首里政府の徹底した管理のもとで、首里城下町の崎山、赤田、鳥堀の三地区のみで醸造されてきた。 まさに王朝時代を栄華をみるようで、酒好きを自認するなら泡盛を飲まずは恥。どうせ飲むなら酒造所も見てみたい。そんな願いを叶えてくれたのが、首里城に近い崎山町にある瑞泉酒造さん。一般 見学も歓迎している。 沖縄には泡盛の酒造所が四十八社あるが、瑞泉酒造は昨年、泡盛が泡盛たる所以の黒こうじ菌、それも戦前のものを使用して泡盛造りに成功した酒造所。マスコミに大々的に報じられた。 瑞泉酒造所の構えは、日本酒の蔵元とは異なり、鉄筋コンクリートづくりでとても近代的。かなりの部分でオートメーションが進んでいるが、重要な作業は今でも熟練の杜氏が手がける。
今回取材にご協力いただいた「瑞泉」さんと貯蔵されている「古酒」(クース )
まず原料となるタイから輸入した米を洗米のあと、水に浸す。次に水をよく切り蒸米機の中で約四〇分ほどで蒸し上げる。蒸された米は製麹機に移され、泡盛特有の香りと味を引き出す黒こうじ菌を散布する。 約40℃を保ち二日間かけて熟成を待ち、三日目に出来上がった麹に水と酵母を加えモロミをつくる。仕込みから三日目にかけさかんに発酵し、二週間でアルコール度数18度にまでなる。この状態でも十分飲めるが、ワインのような味わいという。 熟成モロミは単式蒸留機へと移されさらに蒸留。黒こうじ菌と酵母がつくり出す芳香は放ちつつ、泡盛が完成する。 でもこれでお終いではない。泡盛は長期間熟成させることで、味香り共に深みが増す。三年以上貯蔵されたものを古酒(クース)と呼ぶ。 十年、二十一年ものの試飲の機会にも恵まれが、その味たるや筆舌に尽くしがたい旨さ。古酒になればなるほどまろやかさが口一杯に広がる。蒸留酒ということで、淡く黄色みを帯びたその色も加わり、ウイスキーのような味わいを持つが、ほのかに感じさせる甘みと舌触り。またしてもアルコール漬けの日々が続きそうである。 この瑞泉酒造では昨年、戦前の黒こうじ菌を使った泡盛「御酒(うさき)」で話題に。この貴重な黒こうじ菌は、酒の神様といわれた発酵学の権威、故坂口名誉教授が採取した標本の中から一昨年発見されたもの。五十五年前の地上戦で酒造所が集中していた首里は地形の変わるほどの壊滅状態で、酒造所ごとの異なる個性的な味わいの菌も戦争の犠牲になったから、まさに幻の菌といえるだろう。 しかも幻の菌は人工的なものに比べてかなりデリケートで、成功の確率は五分五分というから、酒造りへの情熱から生まれた奇跡の酒ともいえるだろう
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